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シビックタイプRセダン(FD2)は今が買い時?後悔しない選び方

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シビック タイプr セダン」という特別な一台について調べているあなたは、おそらくその唯一無二の魅力に惹かれていることでしょう。この記事では、そもそもシビックタイプR セダン FD2とはどのような車なのか、その核心に迫ります。歴代唯一の4ドアピュアスポーツという特異な存在であり、官能的な最後のNA VTEC K20Aエンジンを搭載したこのモデルは、今なお多くのファンを魅了してやみません。しかし、いざ購入を検討すると、FD2の中古車が価格高騰している理由や、シビックタイプRは買えないと言われる背景に直面します。現行のFD2とFK8を比較すると、ターボとNAの違いも明確です。また、スパルタンなFD2のインプレッションや乗り心地、避けて通れないFD2の弱点や故障しやすい箇所、そしてFD2の維持費や年間コストについても気になるところでしょう。人気色のチャンピオンシップホワイトの魅力や、無限パーツを使ったFD2のカスタムの楽しさ、シビックタイプRの歴代モデルとの位置付けを理解し、後悔しない中古車の選び方と注意点まで、この記事で全ての疑問を解決します。

  • FD2型シビックタイプRだけが持つ唯一無二の特徴
  • 現在の市場価格と、価格が高騰し続けている理由
  • 購入後に後悔しないための、特有の弱点と維持費
  • 状態の良い中古車を見極めるための具体的なチェックポイント

語り継がれる名車シビック タイプr セダンの魅力

  • そもそもシビックタイプR セダン FD2とは
  • 歴代唯一の4ドアピュアスポーツという価値
  • 心臓部は最後のNA VTEC K20Aエンジン
  • FD2のインプレッションとスパルタンな乗り心地
  • FD2とFK8を比較、ターボとNAの違い
  • 人気色チャンピオンシップホワイトの魅力
  • 無限パーツで楽しむFD2のカスタム

そもそもシビックタイプR セダン FD2とは

シビックタイプR セダン FD2とは、2007年3月から2010年8月にかけて本田技研工業が製造・販売した、8代目シビックをベースとする3代目シビックタイプRの型式名称です。日本のシビックタイプRの輝かしい歴史において、4ドアセダンという実用的なボディ形式を採用したのはこのFD2型が最初で最後であり、その存在は極めてユニークなものとして多くの自動車ファンの記憶に刻まれています。

驚くべきことに、開発当初、8代目シビックの製品計画に「タイプR」の文字は存在しませんでした。ベースモデルがセダンに一本化されたことなどから、開発計画は見送られていたのです。しかし、その流れを変えたのは、ディーラーの営業部門を通じて開発陣に届けられた市場からの熱烈な声でした。「今度のシビックにもタイプRが欲しい」という強い要望は、単なる一台のバリエーション追加を求めるものではなく、ホンダのレーシングスピリットの象徴たる「R」の血統を途絶えさせてはならないという、市場と販売現場の強い意志の表れだったのです。

ファンの熱意がメーカーを動かして生まれた、というストーリーそのものがドラマチックですよね。だからこそ、開発陣もその期待に応えるべく、一切の妥協を許さなかったのでしょう。

この熱意に応える形で急遽始まった開発プロジェクトで、チームが掲げた目標はただ一つ、「サーキット・ベスト」。中途半端なスポーツセダンではなく、絶対的な速さを追求するピュアマシンを目指しました。具体的な目標として、当時のFF最速のベンチマークであった先代インテグラタイプR(DC5)が持つ筑波サーキットのラップタイムを1秒短縮するという、極めて高いハードルが設定されたのです。このように、FD2はファンの熱意によって生まれ、一切の妥協なく速さを追求した結果、日常の快適性とは引き換えにサーキットで圧倒的なパフォーマンスを発揮する、極めてスパルタンな一台として完成しました。

歴代唯一の4ドアピュアスポーツという価値

サーキットのピットレーンに駐車された白いシビックタイプR FD2。ドライバーとメカニックがタブレットを囲んで会話している。

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FD2が持つ最大のアイデンティティは、「歴代唯一の4ドアセダン」というパッケージングにあります。初代EK9や2代目EP3が軽量な3ドアハッチバックであった伝統を考えると、このボディ形式の変更は、発表当時、多くのファンに大きな驚きをもって迎えられました。

しかし、これは単なる奇をてらったスタイリングの変更ではありません。セダンボディの採用は、速さを追求するための明確なエンジニアリング的判断に基づいています。一般的にセダンボディは、リアゲートという大きな開口部を持つハッチバックに比べて構造的に剛性を確保しやすく、車体のねじれや歪みに強いというメリットがあります。開発チームはこの利点を最大限に活かすべく、超高張力鋼板(ハイテン材)の適用範囲を拡大し、フロアトンネル部に補強材を追加するなど、徹底的なボディ強化を実施。その結果、先代のDC5インテグラタイプRと比較して、静的ねじり剛性で実に約50%もの劇的な向上を達成しました。この岩のように強靭なボディこそが、FD2の異次元とも評されるハンドリング性能と、高速走行時の圧倒的な安定感の揺るぎない土台となっているのです。

実用性というもう一つの価値

サーキット性能が注目されがちなFD2ですが、4ドアであることによる実用性の高さも見逃せません。独立した後部座席は大人でも十分快適に乗車でき、独立したトランクスペースは日常の買い物から旅行の荷物まで、多くの荷物を気兼ねなく積み込めます。サーキット直系のパフォーマンスと、家族も乗せられる日常の実用性。この二面性こそが、他のタイプRにはないFD2だけの特別な価値と言えるでしょう。

純粋なレーシングマシンに限りなく近い性能を持ちながら、時にはファミリーセダンとしても機能する。この類まれな両立こそが、FD2を単なる速いクルマから、語り継がれるべき名車の領域へと押し上げた重要な要素なのです。

心臓部は最後のNA VTEC K20Aエンジン

ボンネットを開けたシビックタイプR FD2のエンジンルーム。赤いヘッドカバーのK20A型エンジンが鮮やかに写っている。

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FD2の心臓部に搭載されているのは、ホンダのVTECエンジンの歴史、ひいては日本の自動車史における傑作の一つと評される「K20A」型2.0L DOHC i-VTECエンジンです。型式名こそインテグラ(DC5)や先代シビック(EP3)と同じですが、その内部は「サーキット・ベスト」を実現するために、ほぼ別物と言えるほど徹底的なチューニングが施されています。

その進化を象徴するのが、NSXの製造ラインで培われた精密加工技術を持つ熟練工が、一基ずつ手作業で吸排気ポートの研磨を行ったという逸話です。鏡のように滑らかに仕上げられたポートは吸排気抵抗を極限まで低減し、エンジンの呼吸効率を劇的に向上させました。さらに、インテークマニホールドのストレート化やスロットルボディの大径化、排気効率を突き詰めたエキゾーストマニホールドの採用など、吸排気系の隅々にまで手が加えられています。これらの改良により、圧縮比は11.7まで高められ、NA(自然吸気)エンジンでありながらリッターあたり112.5馬力という、量産エンジンとしては驚異的なスペックを達成しました。

K20A型エンジンスペック (FD2)

種類 水冷直列4気筒DOHC i-VTEC
総排気量 1,998cc
最高出力 165kW [225PS] / 8,000rpm
最大トルク 215N·m [21.9kgf·m] / 6,100rpm

(出典:本田技研工業株式会社 CIVIC TYPE R FACT BOOK)

そして、何よりもドライバーを虜にするのが、約6,000回転を境にハイカムに切り替わる官能的な「VTECゾーン」です。切り替わった瞬間、管楽器のような澄んだサウンドと共に、まるで二次曲線を描くようにパワーが炸裂します。レッドゾーンが始まる8,400回転まで、どこまでも鋭く突き抜けていくようなフィーリングは、ターボエンジンが主流となった現代の車では決して味わうことのできない、NA高回転エンジンだけの特別なドライビング体験です。このFD2に搭載されたK20Aが、結果的にシビックタイプRにおける最後の自然吸気エンジンとなり、その歴史的価値を不動のものとしています。

FD2のインプレッションとスパルタンな乗り心地

ワインディングロードのコーナーを駆け抜ける白いシビックタイプR FD2。ドライバーの顔が見える。

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FD2の乗り味を最も的確に、そして正直に表現する言葉は「スパルタン」、あるいは「過激」です。前述の通り、この車は「サーキット・ベスト」というコンセプトを具現化するため、サスペンションは快適性という概念をほぼ排除した、極めて硬い設定になっています。

市街地を走り出すと、そのキャラクターはすぐに牙を剥きます。路面のわずかな凹凸、マンホールの蓋、道路の継ぎ目といったあらゆる情報を、まるでフィルターを介さずにゴツゴツとした衝撃として乗員に伝えてきます。特に、少し荒れた路面では車体が常に小刻みに揺すられ続け、快適なドライブを期待していると、数十分で疲労を感じてしまうかもしれません。これは、サーキットでの強大な横Gに耐え、タイヤの接地性を最大限に保つために採用されたブリヂストンと共同開発の専用タイヤ「POTENZA RE070」と、その性能を100%引き出すための専用ダンパーとスプリングが生み出す、性能と引き換えに快適性を潔く切り捨てた結果なのです。

購入前に必ず試乗を

FD2の乗り心地の硬さは、多くのユーザーレビューで必ずと言っていいほど指摘される最重要ポイントです。ご自身が許容できるかは勿論のこと、家族や恋人を乗せる機会がある場合は、必ず同乗者も含めて試乗し、その乗り心地が許容できる範囲かどうかを慎重に判断することを強くおすすめします。この確認を怠ると、購入後の後悔に繋がりかねません。

しかし、一度サーキットや交通量の少ないワインディングロードに持ち込むと、その評価は180度変わります。あれほど硬質に感じられた足回りと強靭なボディがもたらす路面に張り付くような安定感は絶大で、まるでレーシングカーのように鋭く、そして正確にコーナーを駆け抜けていきます。ステアリング操作に対する車の反応はカミソリのようにシャープであり、ドライバーの意図した通りに寸分の狂いなく車が動くダイレクトな一体感は、他のどんな車でもなかなか味わうことのできない快感です。この「公道を走れるレーシングカー」とも言える二面性、そして乗り手を選ぶ過激なキャラクターこそが、FD2を単なる速いセダンではなく、熱狂的なファンを生み出す特別な存在たらしめている最大の理由なのです。

FD2とFK8を比較、ターボとNAの違い

白いシビックタイプR FD2とFK8が並んで駐車されている。左がFD2で右がFK8

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FD2の購入を検討する際、しばしば比較対象として挙がるのが、2世代後のモデルであり、現代のタイプRの基準とも言えるFK8型シビックタイプRです。両者は同じ「シビックタイプR」の名前を冠していますが、その設計思想やドライビングフィールは全くの別物と言って差し支えありません。

両者を隔てる最大の違いは、やはりエンジンの過給方式です。FD2が伝統的な自然吸気(NA)エンジンであるのに対し、FK8は現代の主流であるターボエンジンを搭載しています。これにより、パワーとトルクの出方が根本的に異なり、車の性格を大きく左右しています。

比較項目 FD2 (2007年) FK8 (2017年)
エンジン 2.0L 自然吸気 (NA) 2.0L VTECターボ
最高出力 225PS / 8,000rpm 320PS / 6,500rpm
最大トルク 215N·m / 6,100rpm 400N·m / 2,500-4,500rpm
車両重量 1,270kg 1,390kg
新車時価格 約283万円 約450万円
ドライビング体験 高回転まで回す楽しさ、リニアな反応 低回転からの圧倒的なトルク、絶対的な速さ

表を見ても分かる通り、FK8はターボの恩恵により、わずか2,500回転という低い回転数からFD2の最大トルクの約2倍もの強大なトルクを発生させます。これにより、どの回転域からでもアクセルを踏めば即座にシートに押し付けられるような猛烈な加速をみせる「絶対的な速さ」が魅力です。一方でFD2は、アクセルの踏み込み量とパワーの出方が完全にシンクロしたリニアな反応と、エンジンを8,000回転以上まで回し切り、自分の腕でパワーを絞り出す官能的なフィーリングが最大の魅力と言えます。

どちらが良い・悪いという話ではなく、「どんな速さ、どんな楽しさを求めるか」という価値観の違いですね。洗練された電子制御と圧倒的なパワーで安楽に速いのがFK8、アナログな機械との対話を楽しみながら、高回転をキープして速さを引き出すのがFD2、といったイメージです。

また、アダプティブダンパーシステムによる乗り心地の可変機能や、先進の運転支援システムなど、快適装備や電子デバイスは新しいモデルであるFK8の方が圧倒的に充実しています。ピュアでアナログな機械との対話を何よりも重視するならFD2、現代的な快適性と、誰が乗っても分かる絶対的な速さを両立したいならFK8が、それぞれ魅力的な選択肢となるでしょう。

人気色チャンピオンシップホワイトの魅力

ホンダのタイプRを語る上で、その象徴とも言えるボディカラーが「チャンピオンシップホワイト」です。これは、ホンダが1965年にF1世界選手権で歴史的な初優勝を飾ったマシン「RA272」のアイボリーホワイトのボディカラーをイメージした特別な色であり、単なる「白」ではありません。

わずかに黄色みがかった、温かみのあるこの独特の色合いは、ホンダの挑戦の歴史とレーシングスピリットそのものを体現するカラーとして、初代NSXタイプRから歴代のタイプRモデルへと大切に受け継がれてきました。FD2においてもこのカラーはユーザーから絶大な人気を誇り、中古車市場でも他のカラーに比べて数十万円高く取引されることも珍しくない、最も価値のあるカラーとなっています。

FD2のボディカラー一覧

  • チャンピオンシップホワイト (NH0): 最も象徴的で人気が高いカラー。
  • スーパープラチナムメタリック (NH704M): 後期型から追加された、上質な輝きを持つシルバー。
  • アラバスターシルバーメタリック (NH700M): 前期型のみに設定された、明るいシルバー。
  • ビビッドブルー・パール (B520P): 鮮やかでスポーティな印象のブルー。
  • クリスタルブラック・パール (NH731P): 後期型から追加された、精悍なブラック。

もちろん、精悍なブラックや鮮やかなブルーなど、他のカラーにもそれぞれの魅力があり、個性を表現するには素晴らしい選択肢です。しかし、「ホンダのタイプRに乗る」という所有感を最も強く満たし、将来的なリセールバリューを考慮する上でも、このチャンピオンシップホワイトは最も手堅く、そして最も満足度の高い選択肢と言えるでしょう。これからFD2を探すのであれば、まずはこの象徴的なカラーを纏った実車を見てみることを強くおすすめします。

無限パーツで楽しむFD2のカスタム

無限のエアロパーツとカーボンボンネットでカスタムされた白いシビックタイプR FD2。ガレージ内に駐車されている。

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FD2の魅力を語る上で絶対に欠かせないのが、ホンダのモータースポーツ活動を支え続けるワークスチューナー「無限(M-TEC)」の存在です。無限はFD2の発売と同時に、そのポテンシャルをさらに引き出すための多種多様な高品質なカスタムパーツをリリースしました。

特に人気が高いのは、風洞実験を繰り返して開発されたエアロパーツ群です。ダウンフォースを発生させるアグレッシブなデザインのフロントエアロバンパーや、角度調整機能を持つカーボン製のリアウイングは、見た目の迫力を増すだけでなく、高速走行時の安定性を実際に向上させる機能部品として設計されています。他にも、官能的なサウンドを奏でるスポーツエキゾーストシステムや、軽量・高剛性な鍛造アルミホイール「GP」など、全身に渡って魅力的なパーツがラインナップされていました。

そして、無限とFD2の関係を象徴するのが、2007年に300台限定で販売されたコンプリートカー「無限 RR (ダブルアール)」です。これは単なるカスタムカーではなく、無限が独自の思想で作り上げた「究極のFD2」とも言えるモデルです。専用カムシャフトなどでエンジンは240馬力までチューンナップされ、内外装にもカーボンパーツやレカロと共同開発した専用シートがおごられました。新車価格477万円という高価さにも関わらず、発売開始からわずか10分で完売したという逸話は、今なお語り継がれています。現在、その希少性から中古車市場では1,000万円を超える価格で取引されることもあり、もはやコレクターズアイテムとなっています。

ノーマル状態の美しさを保つのも素晴らしいですが、メーカー直系ならではの信頼性とクオリティを誇る無限パーツで、自分好みの一台に仕上げていくのもFD2の大きな楽しみ方の一つです。中古車市場には、こうした無限パーツが装着された車両も多く流通しているので、パーツ込みで探してみるのも面白いですよ。

これからFD2をカスタムしたいと考えている方にとって、その品質、性能、そしてブランドイメージにおいて、無限は最も信頼でき、そして満足度の高い選択肢の一つとなるでしょう。


シビック タイプr セダンの賢い購入と維持方法

  • FD2の中古車価格が高騰している理由
  • シビックタイプRが買えないと言われる背景
  • FD2の弱点と知っておくべき故障しやすい箇所
  • FD2のリアルな維持費と年間コスト
  • 後悔しないための中古車の選び方と注意点

FD2の中古車価格が高騰している理由

現在、FD2の中古車価格は驚くほど高騰し、高値で安定しています。生産終了から15年近くが経過しようとしているにも関わらず、走行距離の少ない程度の良い個体であれば、当時の新車価格(約283万円)を大幅に上回る300万円台後半から400万円以上のプライスボードが掲げられていることも珍しくありません。

この一見異常とも思える価格高騰の背景には、いくつかの複合的な理由が存在します。自動車専門誌MotorTrendの記事でも触れられているように、近年の日本製スポーツカー(JDM)の世界的な人気が大きく影響しています。

価格高騰の複合的な要因

  1. 最後のNA・高回転VTECエンジン: ターボ化やハイブリッド化、そしてEV化が進む現代において、FD2が搭載するような官能的な自然吸気・高回転エンジンは絶滅危惧種です。その唯一無二のフィーリングを求めるファンからの需要が、その希少価値を年々高めています。
  2. 唯一無二のパッケージング: 前述の通り、サーキット直系の性能を持つ「FFスポーツセダン」というパッケージングを持つタイプRはFD2のみであり、他に代わりとなる車が国内外を見渡してもほとんど存在しません。
  3. 世界的なJDM人気: 特にアメリカの「25年ルール(製造から25年が経過した右ハンドル車も輸入・登録が合法になる制度)」の影響で、日本の90年代スポーツカーの価格が異常高騰しました。FD2もその次世代として海外のJDMファンから熱い視線を浴びており、将来的な価格上昇を見越した海外バイヤーによる買い付けも、国内価格を押し上げる一因となっています。
  4. 良質な個体の減少: 生産終了から時間が経過し、事故や過走行、不適切なメンテナンスによって、本来の性能を維持した程度の良い車両は確実に減少しています。限られた良質な個体に需要が集中することも、価格高騰に拍車をかけています。

これらの理由から、FD2は単なる移動手段としての中古車ではなく、価値が下がりにくい、あるいは将来的に価値が上がる可能性すら秘めた「資産」としての側面も持つようになりました。今後もこの傾向は続くと予想され、価格が大きく下落することは考えにくい状況です。

シビックタイプRが買えないと言われる背景

「シビックタイプRは高くて買えない」という声は、特にFD2を探し始めたばかりの方からよく聞かれます。これは、前述の異常とも言える中古車価格の高騰が最も直接的な原因です。

2000年代後半に新車で販売されていた国産セダンが、15年近く経った今、新車価格を超える金額で取引されるというのは、一般的な中古車の価値観からすれば理解しがたいかもしれません。同年代の他のセダンであれば、数十万円から100万円程度で購入できるものが大半です。そのため、軽い気持ちでFD2の購入を検討し始めたものの、中古車情報サイトでその価格を見て「こんなに高いとは思わなかった」と驚き、購入を断念してしまうケースが非常に多いのです。

しかし、「買えない」と言われる理由は、単純な車両価格の高さだけではありません。購入後の維持に関する金銭的、そして精神的なハードルの高さも、その背景に大きく影響しています。

「車両価格+α」の覚悟が必要

FD2はサーキット走行を前提としたハードな作りのため、エンジンオイルやタイヤ、ブレーキパッドといった消耗品一つとっても、一般的な乗用車に比べて高性能で高価なものが要求されます。また、生産終了から時間が経っているため、ゴム部品やセンサー類など、経年劣化による予期せぬ故障のリスクも常に考慮しなければなりません。つまり、車両価格を支払って終わりではなく、購入後すぐに発生する可能性のある整備費用や、年間を通してかかる高めの維持費のための予算も確保しておく必要があるのです。

結論として、「買えない」と言われる背景には、単純な車両価格の高さだけでなく、購入後のカーライフまで見据えた「高性能スポーツカーを最高のコンディションで維持していく覚悟」が求められるという、金銭的・精神的なハードルの高さも影響していると言えるでしょう。

FD2の弱点と知っておくべき故障しやすい箇所

FD2のよくある故障箇所を複数枚の画像で示したコラージュ。上段はオイル漏れしているエンジン、左下はピンクに変色したブレンボキャリパー、右下は垂れ下がった天張りのクローズアップ。

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FD2を長く、そして安心して維持していく上で、その成り立ちに起因する特有の弱点や、経年劣化によって故障しやすい箇所を事前に把握しておくことは非常に重要です。ここではオーナーの間で広く知られている代表的なトラブル事例を、より詳しく紹介します。

【最重要】エアコンコンプレッサーの不調

FD2における最も有名かつ発生確率の高い弱点と言えるのがエアコンシステムです。特にコンプレッサー内部の電磁石である「マグネットクラッチ」が故障しやすく、「冷たい風が出たり出なかったりする」「走行中は冷えるが、信号待ちでぬるい風になる」といった症状が頻発します。これはクラッチが摩耗したり、クリアランスが規定値からずれたりすることで発生します。最終的にはコンプレッサーが全く作動しなくなり、真夏には非常に過酷な状況となります。修理にはリビルト品(再生部品)を使っても10万円前後の費用がかかる、定番のウィークポイントです。

エンジン周りのオイル漏れ

K20Aエンジン自体は非常に頑丈なことで知られていますが、経年劣化によるオイル漏れは避けられません。特に以下の箇所は定番の漏れポイントです。

  • ヘッドカバーパッキン: エンジン上部のヘッドカバーの縁にあるゴム製パッキンが熱で硬化し、オイルが滲んできます。
  • スプールバルブパッキン: VTEC機構を油圧で制御するスプールバルブのパッキンからの漏れも定番です。
  • VTCオイルコントロールソレノイドバルブOリング: 可変バルブタイミング機構の部品のOリングからも漏れやすい箇所です。

いずれも滲み程度であれば緊急性は低いですが、放置すると漏れが拡大し、他の部品を汚したり、最悪の場合はオイル不足に繋がるため、定期的な点検と早めの交換が推奨されます。

その他、注意すべきウィークポイント

  • エンジンマウントの劣化: 高出力エンジンの振動を受け止めるゴム製のマウントが経年でヘタります。アイドリング時の不快な振動や、シフトチェンジ時のショックが大きくなったら交換時期です。特にミッション側のマウントが切れやすい傾向にあります。
  • ブレンボキャリパーのトラブル: ブレーキフルードを交換する際のブリーダーバルブが錆で固着しやすい弱点があります。無理に回そうとすると折れてしまい、キャリパー交換が必要になるケースも。また、サーキット走行などで高熱に晒されると、特徴的な赤い塗装が色褪せ、ピンク色に変色することがあります(通称「ピンクブレンボ」)。
  • 天張りの剥がれ: 天井の内張りを留めている接着剤が日本の高温多湿な気候で劣化し、垂れ下がってくることがあります。メーカー部品はすでに廃番のため、修理は内装リペア専門店での張り替えとなります。

これらのトラブルは全ての個体で発生するわけではありませんが、FD2を中古で購入する際は、これらの定番ポイントを重点的にチェックすることが、後悔しないための重要な鍵となります。

FD2のリアルな維持費と年間コスト

FD2を所有した場合、年間でどれくらいの維持費がかかるのでしょうか。これはオーナーの乗り方や保管状況によって大きく変わりますが、ここでは年間1万km程度の一般的な使用状況を想定した、より現実的な年間の維持費の目安をシミュレーションしてみます。

FD2 年間維持費シミュレーション (年間1万km走行)

項目 費用目安 備考
自動車税 約45,400円 1,500cc超~2,000cc以下の税率39,500円に、13年経過による重課税(約15%)が適用されます。(出典:総務省ウェブサイト)
自動車重量税 16,400円 車検時に2年分(32,800円)を支払うため、1年あたりで換算。13年経過の税率が適用されます。
自賠責保険料 約10,000円 車検時に24ヶ月分(約20,000円)を支払うため、1年あたりで換算。
任意保険料 約70,000円~150,000円 年齢や等級、車両保険の有無で大きく変動。料率クラスが高いため、一般的なセダンより高額になります。
ガソリン代 約166,000円 年間1万km走行、燃費9km/L、ハイオク150円/Lで計算。市街地走行が多いとさらに悪化します。
メンテナンス費用 約80,000円~200,000円 下記詳細。タイヤ交換など高額な消耗品交換があると跳ね上がります。
合計 約387,800円~ これに加えて駐車場代(地域による)、2年に1度の車検費用(約10万円~)、突発的な修理費がかかります。

特に差が出るのがメンテナンス費用です。FD2は高性能な分、各消耗品もそれに準じたものが要求されます。

  • エンジンオイル: 高回転・高負荷に耐える100%化学合成油が必須。推奨粘度は5W-40など。3,000km~5,000km毎の交換が推奨され、年間2~3回の交換で約2~3万円。
  • トランスミッションオイル: ホンダ純正のMTF-3が指定。シフトフィール維持のため、1~2万km毎の交換が望ましく、1回あたり約1万円。
  • タイヤ: 純正採用のポテンザRE070のようなハイグリップタイヤが推奨されます。サイズが225/40R18と大きく、交換すると4本で10万円~20万円と高額です。

年間で考えると、大きな消耗品交換がない年でも最低で40万円、余裕を見て50万円程度の予算を考えておくと安心です。もちろん、走行距離が短ければもっと抑えられますが、高性能スポーツカーを維持するには、それ相応のコストがかかることを理解しておく必要がありますね。

購入時の車両価格だけでなく、こうした具体的なランニングコストまでしっかりと把握した上で、無理のないカーライフプランを立てることが、FD2と長く付き合っていくための秘訣です。

後悔しないための中古車の選び方と注意点

自動車整備工場で、メカニックが白いFD2のボディを点検し、営業担当者が書類を持って説明している。

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最後に、数少なくなってきた程度の良いFD2の中古車を選び抜くための、より実践的なチェックポイントと注意点を解説します。数百万円という高価な買い物で後悔しないために、以下のポイントを頭に入れて実車確認に臨んでください。

【大前提】修復歴の有無と記録簿の確認

まず、販売店のスタッフに確認すべき最重要項目は「修復歴」の有無です。これは車の骨格部分(フレーム)を修正・交換したことがあるかどうかを示すもので、修復歴がある車両は、たとえ外観がどれだけ綺麗に直っていても、ボディ剛性の低下や走行安定性の悪化、将来的な不具合の発生リスクを根本的に抱えています。特にFD2のような高剛性ボディが命のスポーツカーにとって、これは致命的です。価格がどれだけ魅力的でも、修復歴のある車両は絶対に避けるのが賢明です。併せて、過去の整備履歴が分かる整備記録簿(メンテナンスノート)の有無も確認しましょう。定期的にディーラーや信頼できる工場でメンテナンスされてきた記録があれば、その車が大切に扱われてきた証となります。

内外装から車両の状態を読み解く

内外装の状態は、その車がどのような環境で、どのように扱われてきたかを雄弁に物語ります。

  • 外装: パネル(ドア、フェンダー、ボンネット等)の隙間が均一かを確認し、不自然に広い、または狭い箇所があれば、板金修理の可能性があります。塗装の状態も重要で、特に赤や青などの濃色は色褪せが出やすいです。ルーフモールのゴムの劣化や浮きもチェックしましょう。
  • 内装: 走行距離に対して、ステアリングやシフトノブ、シートのサイドサポート部分の擦れが過度に進行していないか確認します。FD2専用の赤いシートは汚れや日焼けが目立ちやすいので、状態をよく見ましょう。また、定番の弱点である天張りの垂れがないかも必ずチェックします。
  • 下回り・エンジンルーム: 可能であればリフトアップして下回りを見せてもらい、サビやオイル漏れ、フレームの損傷がないかを確認できると理想的です。エンジンルーム内が不自然に綺麗な場合は、オイル漏れなどを隠すために洗浄されている可能性もあるため、注意が必要です。

必ず実施したい試乗時のチェックポイント

可能な限り試乗させてもらい、五感を使って車の状態を確認しましょう。

  1. エンジンとミッション: エンジンはスムーズに高回転まで吹け上がるか、異音や白煙は出ていないか。ミッションは、特に前期型の一部で指摘された弱点である3速ギアに、冷間時・温間時ともにスムーズに入るかを入念に確認します。クラッチの滑りや異音がないかも重要です。
  2. 足回りとブレーキ: 平坦な道でステアリングをまっすぐにした際に、車が左右に流れないか。段差を乗り越えた際に「コトコト」「ギシギシ」といった異音がしないかを確認します。ブレーキはしっかりと効くか、異音やジャダー(振動)がないかを確認します。
  3. 電装品: 定番の弱点であるエアコンが正常に作動し、冷たい風が安定して出るかを5分以上作動させて確認します。パワーウィンドウやメーター類など、全ての電装品が正常に動くかもチェックしましょう。

FD2は非常に専門性の高い車です。そのため、可能であればシビックタイプRやホンダのスポーツカーを専門に扱っている、信頼できる販売店で購入することを強く推奨します。専門店のスタッフはFD2の弱点や特徴、モデルごとの違いを熟知しているため、購入前の的確なアドバイスや、購入後のメンテナンスまで含めて、安心して任せることができるでしょう。


価値が上がるシビック タイプr セダンの結論

  • FD2は2007年から2010年にかけて販売された3代目シビックタイプR
  • 日本のシビックタイプRの歴史上、唯一無二の4ドアセダンボディを採用
  • 開発コンセプトは快適性よりも速さを徹底的に追求した「サーキット・ベスト」
  • セダンボディの利点を活かした高剛性シャシーが異次元のハンドリング性能を実現
  • 心臓部は職人が手作業でポート研磨を施した傑作K20A型VTECエンジン
  • 最高出力は225馬力を8,000回転という高回転で発生させるNAユニット
  • このエンジンがシビックタイプRとして最後の自然吸気エンジンとなった
  • 乗り心地は非常に硬くスパルタンで、日常の快適性とは無縁とも言える
  • サーキットやワインディングでは水を得た魚のようにレーシングカーのような性能を発揮
  • タイプRの象徴である「チャンピオンシップホワイト」が最も人気で価値も高い
  • ホンダ直系の無限(M-TEC)が手掛けた高品質なカスタムパーツが豊富に存在する
  • その希少価値と世界的なJDM人気から中古車価格は新車価格を超えるほど高騰中
  • 購入後の維持には特有の弱点を理解し、計画的な予算(年間40~50万円目安)が必要
  • エアコンコンプレッサーの不調やエンジン周りのオイル漏れが定番のトラブル
  • 後悔しないためには修復歴のない個体を、専門知識の豊富な信頼できる販売店で選ぶことが最重要
  • この記事を書いた人

旧車ブロガーD

はじめまして! 80~90年代の名車たちへの「憧れ」と、愛車のメンテナンスで得た「機械への敬意」を胸に、誠実な情報をお届けします。

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