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日産の高級セダンとして一時代を築いたセドリックとグロリア。
両車はよく似た姿をしていますが、「セドリックとグロリアは同じなのか、それとも違うのか」という疑問は、多くのクルマ好きが一度は抱くものでしょう。
この記事では、2台の輝かしい歴史を紐解き、なぜ兄弟車になったのかという背景から、その違いを徹底的に解説します。
歴代モデル一覧を振り返りながら、販売店の違いがもたらした巧みなキャラクター設定や、エンブレムとグリルの違いといった具体的な外観の識別ポイントを詳しく見ていきましょう。
特に中古車市場で人気の高いY31型やY33型におけるセドリックとグロリアの違いにも深く焦点を当てます。
さらに、販売実績や人気の比較、一部で語られるヤンキーのイメージ、そして独特の存在感を放つワゴンの特徴にも言及します。
現在、旧車としての価値がどのように評価され、中古価格はいくらで推移しているのか。セドリックとグロリアに関するあらゆる違いを、この記事で網羅的に解き明かしていきます。
- セドリックとグロリアが兄弟車になった歴史的背景
- 外観デザインにおける具体的な見分け方
- 「グランツーリスモ」登場によるキャラクターの分岐
- 現在の旧車としての価値と中古車市場での人気
基本から紐解くセドリックとグロリアの違い
- セドリックとグロリアはそもそも同じなのか
- なぜ兄弟車に?セドリックとグロリアの歴史
- 大きな差別化点であった販売店の違い
- 外観の要であるエンブレムとグリルの違い
- セドリックとグロリアの歴代モデル一覧
セドリックとグロリアはそもそも同じなのか
結論から申し上げると、1971年に登場した230型以降のセドリックとグロリアは、プラットフォーム(車台)や主要なコンポーネントを共有する「兄弟車」です。
エンジン、トランスミッション、サスペンションの基本構造といった、自動車の根幹をなす部分は全く同じものでした。
したがって、「走行性能」や「乗り心地」といった基本的な動的性能において、両者の間に本質的な差は存在しませんでした。
では、何が異なっていたのでしょうか。
その主な違いは、①外観デザイン(特にフロントとリア)、②取り扱い販売チャネル、そして③それらによって醸成されるブランドイメージの3点に集約されます。
日産は、一台の車をベースとしながらも、フロントグリル、ヘッドライト、テールランプ、エンブレムといった視覚的要素を巧みに使い分けることで、それぞれの車に異なる個性と、明確に分けられたターゲット顧客層を与えていたのです。
ポイント
セドリックとグロリアは、車の骨格を共有する兄弟車です。
最大の違いは、法人需要や落ち着きを求める層に向けたフォーマルな「セドリック」と、個人オーナーや先進性を好む層に向けたスポーティな「グロリア」という、デザインとブランドイメージの戦略的な差別化にありました。
言ってしまえば、これは日産の極めて巧みなマーケティング戦略でした。
一つの開発コストで性質の異なる二つの製品ラインナップを生み出し、幅広い顧客層にアプローチすることで、絶対的王者であったトヨタ・クラウンの牙城を崩そうとしたのです。
この手法により、ユーザーは自らのライフスタイルや価値観、好みに合わせて、セドリックかグロリアかという選択を楽しむことができました。
なぜ兄弟車に?セドリックとグロリアの歴史

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セドリックとグロリアが兄弟車として歩むことになった背景には、日本の自動車産業における激動の歴史が深く関わっています。
驚くべきことに、もともとこの2台は全く異なる思想を持つ会社が開発した、市場の覇権を争う熾烈なライバル関係にあったのです。
セドリックは、1960年に日産が英国オースチン社との技術提携で得たノウハウを元に、初めて完全自社技術で開発した記念碑的な中型乗用車です。
一方のグロリアは、中島飛行機などの航空機メーカーを源流に持つ、孤高の技術者集団「プリンス自動車工業」が1959年に市場に送り出した高級車でした。
特に1962年発売の2代目グロリア(S40型)は、国産初のSOHC機構を持つ高性能な直列6気筒「G7型」エンジンや、レーシングカーにも採用される高度な「ド・ディオン・アクスル」式リアサスペンションを搭載するなど、採算性よりも技術的理想を追求したモデルとして、他を圧倒していました。
補足:プリンス自動車の威信
プリンス自動車は、宮内庁に御料車を納入していたことでも知られ、「グロリア(Gloria:栄光)」という車名は、当時の皇太子明仁親王(現・上皇陛下)のご成婚を祝して命名されたという輝かしい歴史を持ちます。
この「皇室御用達」という他を寄せ付けないブランドイメージが、後のグロリアが持つ独特の格調高さの源流となっていきます。
しかし、卓越した技術力を誇ったプリンス自動車も、その高コスト体質から経営的な困難に直面します。
折しも、当時の通商産業省(現・経済産業省)は、国際競争力強化のために国内自動車メーカーの再編・統合を推進していました。
このような背景のもと、1966年8月、プリンス自動車は日産自動車と合併することになります。(出典:日産自動車 企業情報 会社沿革 1960年代)
この歴史的な合併により、ライバル同士の運命が劇的に交差します。
合併直後に登場した3代目グロリア(A30型)は、プリンスが開発した最後の純血モデルでしたが、心臓部であるエンジンが日産製L20型に換装されるなど、徐々に「日産化」が進みました。
そして、運命の1971年、4代目となる230型から、セドリックとグロリアは初めてプラットフォームを完全共有する兄弟車として生まれ変わり、その後30年以上にわたって日本の高級車市場を共に支え続けることになったのです。
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大きな差別化点であった販売店の違い

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兄弟車となったセドリックとグロリアのキャラクターを明確に分ける上で、デザインと並んで決定的に重要だったのが、取り扱い販売系列(チャネル)の違いでした。現在のワンプラットフォーム化されたディーラー網とは異なり、当時の自動車メーカーは複数の販売系列を持ち、それぞれが異なる客層とブランドイメージを担っていました。
日産の場合、主に以下のような系列が存在し、セドリックとグロリアは明確に販路が分けられていました。
販売系列 | 主な取扱車種 | ターゲット顧客層とイメージ | セド・グロ担当 |
---|---|---|---|
日産店 | ブルーバード、ダットサントラック | 日産の主力。ファミリー層から商用まで幅広い。 | セドリック |
モーター店 | ローレル、プレジデント、シルビア | 高級車やスペシャリティカーを扱う上級系列。 | |
プリンス店 | スカイライン、チェリー | 旧プリンス系。走りを重視するスポーティなイメージ。 | グロリア |
サニー店 | サニー、サニートラック | 大衆車・エントリーモデルが中心。 | (取扱なし) |
このように、セドリックは日産の伝統的な主力系列である「日産店」と上級車種を扱う「モーター店」で販売されました。
これらの店舗は、古くからの日産ファンや、ハイヤー・タクシー会社、官公庁といった法人ユーザーとの強固な関係を築いており、セドリックには自然と、信頼性やフォーマルさ、そして威厳といったイメージが求められました。
対照的に、グロリアは旧プリンス自動車の系譜を継ぐ「プリンス店」が専売していました。
プリンス店は、伝説的なスポーツセダンであるスカイラインの販売網であり、「技術のプリンス」「走りのスカイライン」というスポーティで先進的なイメージが強く根付いていました。
そのため、グロリアは主に個人オーナー、特に新しいもの好きで、走りやスタイルを重視する若々しい顧客層に向けたキャラクター付けがなされたのです。
つまり、どのディーラーの看板をくぐるかで、出会う車の「性格」が違っていたわけですね。この巧みな販売戦略が、長年にわたる両車のブランドイメージを決定づけた最大の要因と言えるでしょう。
外観の要であるエンブレムとグリルの違い

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セドリックとグロリアを瞬時に見分ける最も分かりやすい識別点が、クルマの「顔」であるフロントグリルと、ブランドの象徴であるエンブレムのデザインです。
両車は共通のボディパネルを使用しながらも、この部分に世代ごとに明確な違いを与えることで、それぞれの個性を雄弁に物語っていました。
セドリックのグリルとエンブレム
セドリックのフロントグリルは、その歴史を通じて縦基調や細かい格子状のデザインが多く採用されました。
これは視覚的に落ち着きと威厳を演出し、高級セダンとしての風格やフォーマルな印象を強調するものでした。
430型で見せたシャープな直線基調グリルや、Y31型ブロアムの重厚なメッキグリルなどがその典型です。
エンブレムは、その名「Cedric(英国の小説『小公子』の主人公の名)」が示す通り、王冠や盾をモチーフにしたものが多く使われ、高級車としての正統性と伝統を象徴していました。
グロリアのグリルとエンブレム
一方のグロリアは、十字のモチーフや大胆な横基調、Y31型グランツーリスモに代表されるハニカム(蜂の巣)状のデザインなど、スポーティでダイナミックな印象を与えるグリルを特徴としました。
これは、プリンス時代から続く先進性や走りのイメージを表現するものです。
エンブレムは、プリンス自動車の象徴であった「鶴」を抽象化したものや、稲妻を思わせるシャープなデザインが用いられ、その出自とプライド、そして躍動感を示す重要な要素となっていました。
注意点:世代による変化
もちろん、年式やグレードによっては、この原則から外れるデザインも存在します。
しかし、「セドリックは威厳のあるフォーマル系、グロリアは精悍なスポーティ系」という大まかなイメージで捉えると、中古車を見分ける際に非常に分かりやすいでしょう。
特に最終モデルのY34型では、この差別化が最も顕著になり、セドリックが伝統的な大型縦グリルを採用したのに対し、グロリアは独立した丸型4灯ヘッドライトとアグレッシブなロアグリルを持つ、全く異なる表情が与えられました。
セドリックとグロリアの歴代モデル一覧
ここでは、兄弟車となった230型以降の歴代モデルを、その特徴や時代を象徴する技術と共に一覧でご紹介します。デザインの変遷を見ることで、時代の要請と共に両車のキャラクターがどう進化していったかが見えてきます。
モデル | 型式 | 販売期間 | デザインコンセプト | 技術・社会的ランドマーク |
---|---|---|---|---|
4代目 | 230型 | 1971-1975年 | 流麗なコークボトルライン | 初の兄弟車化。日本初のピラーレス4ドアハードトップが大ヒット。 |
5代目 | 330型 | 1975-1979年 | 抑揚の強いアメリカンラグジュアリー | 厳しい排出ガス規制(51年規制)への対応。最高級グレード「ブロアム」登場。 |
6代目 | 430型 | 1979-1983年 | 直線基調のクリーンなヨーロピアン | 日本初のターボエンジン(L20ET)搭載。静粛性も徹底追求された。 |
7代目 | Y30型 | 1983-1987年 | 430型のキープコンセプト・洗練 | 日本初のV型6気筒エンジン「VG型」搭載。パワートレインの革命。 |
8代目 | Y31型 | 1987-1991年 | 豪華さと走りの二極化 | 「グランツーリスモ」登場。セド・グロ史上最大のターニングポイント。 |
9代目 | Y32型 | 1991-1995年 | 丸みを帯びた優雅なブリティッシュモダン | グランツーリスモは象徴的な丸目4灯ヘッドライトを採用。 |
10代目 | Y33型 | 1995-1999年 | ワイド&ローの安定感あるスタイル | 新世代V6エンジン「VQ型」を搭載。270馬力に到達。 |
11代目 | Y34型 | 1999-2004年 | 最後のセド・グロ、デザインの明確な差別化 | 大トルクFR対応CVT「エクストロイドCVT」搭載。 |
このように、セドリックとグロリアは単に外観を変えるだけでなく、時代をリードする先進技術を積極的に投入しながら進化を続けました。
中でも特筆すべきは、Y31型における「グランツーリスモ」という新たな価値観の提示です。
これは、単なる兄弟車という関係から、それぞれが明確な個性とファンを持つ独立したブランドへと昇華する、決定的な出来事でした。
モデルや価値で見るセドリックとグロリアの違い
- 人気のY31とY33での違いを比較
- グロリアとセドリックのワゴンの特徴
- 人気の比較とヤンキーイメージの真相
- 旧車としての価値と気になる中古価格
- まとめ:セドリックとグロリアの違いとは
人気のY31とY33での違いを比較

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中古車市場において今なお絶大な人気を誇るのが、バブル期に設計されたY31型と、その正常進化版であるY33型です。
この2つの世代におけるセドリックとグロリアの違いは、「グランツーリスモ」というグレードの存在感とその深化によって、最も鮮明に特徴づけられます。
Y31型:グランツーリスモ革命
1987年に登場したY31型は、セドリック・グロリアの歴史における最大のターニングポイントと言っても過言ではありません。
それまでの「高級車=豪華でゆったり」という固定観念を打ち破り、明確に“走り”と“ドライビングプレジャー”を追求した「グランツーリスモ」を、まずグロリアのラインナップに投入したのです。(その人気から後にセドリックにも設定)
このグランツーリスモの誕生の背景には、当時の日産が全社を挙げて推進した「901運動」の存在があります。
これは「1990年代までに技術の世界一を目指す」というスローガンのもと、シャシー性能を飛躍的に向上させることを目的とした技術革新運動であり、後のR32型スカイラインGT-RやZ32型フェアレディZといった数々の名車を生み出しました。
Y31グランツーリスモは、その思想が注ぎ込まれた「走れる高級セダン」だったのです。
特徴 | ブロアム | グランツーリスモ |
---|---|---|
コンセプト | 後席の快適性を重視したショーファーカー | 運転の楽しさを追求したドライバーズカー |
外観 | 大型メッキグリル、ボンネットマスコット、豪華な装飾 | 専用エアロバンパー、ハニカムグリル、引き締まった意匠 |
サスペンション | 快適性重視のソフトな設定(電子制御エアサスも設定) | 操縦安定性を高めた専用スポーツチューンサスペンション |
エンジン | 静粛で滑らかな大排気量NA(SOHC)が中心 | 高回転・高出力のDOHCターボ「VG20DET」を設定 |
このように、同じY31という一つの型式の中に、全く異なる二つの人格を共存させたのが最大の特徴です。この大胆な戦略的転換により、特にグロリアは「若々しくスポーティな高級車」という、他にはない強力なブランドイメージを確立しました。
Y33型:個性の熟成とVQエンジン
1995年に登場したY33型では、Y31型から続く「ブロアム vs グランツーリスモ」という二枚看板戦略がさらに熟成の域に達します。
Y32型でグロリア・グランツーリスモの強烈なアイコンとなった丸目4灯ヘッドライトのイメージを継承しつつ、よりワイドで低重心な、安定感のあるスタイリングへと進化しました。
この世代になると、もはやセドリックとグロリアという車種名の違いよりも、「ブロアム」か「グランツーリスモ」かというグレードによる違いの方が、その車の性格を決定づける上で遥かに大きな意味を持つようになります。
そして、技術的なハイライトは、新世代V6エンジン「VQ型」への全面的な移行でした。
傑作エンジン「VQ型」
オールアルミ製で軽量・コンパクト、そして高効率を誇るVQエンジンは、その卓越した性能と滑らかさから世界的に高い評価を受けました。
米国の『ワーズ・オート・ワールド』誌が選定する「ワーズ10ベストエンジン」に9年連続で選出されるという快挙を成し遂げたことからも、その完成度の高さがうかがえます。(出典:日産自動車ニュースルーム 2002/12/11)
最上級グレード「グランツーリスモ アルティマ」には、3.0L DOHCターボの「VQ30DET」が搭載され、当時の自主規制値上限である270馬力を発生。
名実ともに、欧州の高性能スポーツセダンと肩を並べる存在へと登りつめたのです。
グロリアとセドリックのワゴンの特徴

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セダンやハードトップの華やかなイメージが強いセドリックとグロリアですが、実はその傍らで、商用のバンと乗用のワゴンモデルも長い歴史を持つ、根強い人気を誇る車種でした。
ワゴン/バンモデルの最大の特色は、Y30型(1983年〜)の基本設計が、内外装のマイナーチェンジを繰り返しながら1999年まで、実に16年間も生産され続けた点にあります。
セダンがY31、Y32、Y33へと目まぐるしくフルモデルチェンジしていく中、ワゴン/バンだけは、時が止まったかのようにY30型の角張ったフォルムを維持し続けました。
Y30ワゴンの魅力
- 時代を超えたクラシカルデザイン:80年代特有の直線的でスクエアなデザインが、90年代以降、逆に新鮮でおしゃれな「レトロ感」として再評価されました。
- 圧倒的な積載能力:広大な荷室空間はもちろん、後ろ向きに座る3列目シートを備えた8人乗り仕様も存在し、その実用性は現代のミニバンにも引けを取りません。
- カスタムベースとしての無限の可能性:ボディサイドに木目調のパネルを貼る「ウッディ」仕様、車高を下げるローダウン、クラシカルなホイールへの交換など、オーナーの個性を反映するカスタムのベース車両として絶大な人気を誇ります。
セドリックワゴンとグロリアワゴンにも、セダン同様にフロントグリルのデザインなどで差別化が図られていました。
しかし、ワゴンを選ぶユーザーは、その唯一無二の雰囲気や実用性を重視する傾向が強く、現在の中古車市場では両車が甲乙つけがたい人気を保っています。
人気の比較とヤンキーイメージの真相

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セドリックとグロリア、最終的にどちらがより人気だったのでしょうか。
累計の販売台数だけで見れば、法人需要やタクシー市場で圧倒的な強さを誇ったセドリックの方が、常に安定した実績を上げていました。
一般社団法人日本自動車販売協会連合会の統計を見ても、各年でセドリックが販売台数ランキングの上位に入ることが多かったとされています。
しかし、こと個人オーナー、特に「自分の愛車として選びたい」と考える若い世代からの支持という点では、グロリア、とりわけグランツーリスモが市場を席巻しました。
この熱狂的な人気と表裏一体で語られるのが、いわゆる「ヤンキーイメージ」です。
確かに、90年代のカスタムカー雑誌を開けば、主役はいつもセド・グロ、特にグロリアのグランツーリスモでした。あの独特の存在感は、当時の若者にとって特別なものでしたね。
このイメージが広く定着したのには、いくつかの複合的な理由が考えられます。
- 精悍で押し出しの強いデザイン:特にY32・Y33グランツーリスモの、獲物を睨むようなシャープな丸目4灯デザインは、非常に精悍で、少し近寄りがたい「ワル」な雰囲気を醸し出していました。
- FR+ターボという素性の良さ:後輪駆動(FR)レイアウトと高性能なターボエンジンは、チューニングやドレスアップの素材として無限の可能性を秘めており、走りを追求する若者たちの格好のターゲットとなりました。
- 「憧れ」の高級車であること:当時の若者にとって、新車で300万円以上するグロリアは、少し背伸びをして手に入れる憧れのステータスシンボルでした。中古車市場に手頃な個体が流通し始めると、その人気に火が付いたのです。
これらの要素が、バブル経済期の華やかな自己表現の文化と結びつき、セドリックやグロリア、特にグロリアはカスタム文化の象徴となりました。
結果として一部でヤンキーイメージが定着しましたが、それはあくまで一面的な見方であり、本来はそれだけ多くの人々の心を捉えて離さなかった、時代のアイコンであったことの何よりの証明と言えるでしょう。
旧車としての価値と気になる中古価格
生産終了から20年以上が経過し、セドリックとグロリアは現在「ネオクラシックカー」として、国内外でその価値が再評価されています。
特に1980年代後半から90年代のモデルは、現代のクルマにはない独特の雰囲気と、日常使いも可能な信頼性を兼ね備えている点が魅力です。
中古車市場での価格は、年式、走行距離、修復歴、そして何より車両のコンディションによって大きく変動しますが、全体的な傾向は以下の通りです。
- Y31〜Y33型のグランツーリスモ系が圧倒的人気:特にターボエンジンを搭載した「アルティマ」や「SV」といったグレードは需要が非常に高く、内外装のコンディションが良い個体は150万円〜300万円以上、希少な特別仕様車や低走行車ではそれ以上の価格で取引されることも珍しくありません。
- ブロアム系は狙い目の存在:同じ年代でも、快適性重視のブロアム系はグランツーリスモに比べると比較的落ち着いた価格帯で流通しています。上質なセダンの乗り味を手頃な価格で楽しめる、狙い目のグレードと言えます。
- 430型は歴史的価値で高値安定:「日本初のターボ車」という歴史的価値から、マニアからの評価は非常に高いです。特に状態の良い個体は市場に出回ること自体が稀で、価格は高値で安定しています。
- Y30ワゴン/バンも価格が高騰中:唯一無二のクラシカルなスタイルと、カスタムベースとしての人気から、Y30ワゴン/バンは近年価格が著しく上昇しています。
旧車購入時の最重要注意点
ネオクラシックカーの購入には、相応の知識と覚悟が必要です。特に以下の点は致命的なトラブルにつながる可能性があるため、必ず専門家の目でチェックしてもらうことを強く推奨します。
- 世代別の弱点:Y31型のオートマチックトランスミッションの滑りや変速ショック、Y32型のエアコン(特にエバポレーターからのガス漏れ)、Y33型VQエンジンの各種センサー類(エアフロ、クランク角センサーなど)の不調は定番のウィークポイントです。
- 部品供給の現状:エンジンなどの主要な機械部品は、スカイライン等と共通のものも多く、比較的入手しやすいですが、内外装の専用部品(ライト類、内張り、スイッチ類)や電子部品は廃番となっているものがほとんどです。一度壊れると修理が困難、あるいは不可能になるケースもあります。
- 錆(サビ):ホイールアーチ内部、サイドシル下部、フロアなどは特に錆びやすい箇所です。リフトアップしての下回りチェックは必須です。
良好なコンディションを維持するためには、これらの車種に精通した信頼できる専門ショップを見つけることが、何よりも重要になります。
まとめ:セドリックとグロリアの違いとは
最後に、この記事で解説してきたセドリックとグロリアの違いについて、その要点をリスト形式で総括します。
- セドリックとグロリアは基本構造を共有する兄弟車である
- そのルーツは日産とプリンス自動車というライバル企業だった
- 1966年の日産とプリンスの合併が兄弟車となる歴史的転換点
- 1971年の230型からプラットフォームを完全に共有化
- 最大の違いは外観デザインと販売チャネルによるキャラクター分け
- セドリックは法人需要を意識したフォーマルで威厳のあるイメージ
- グロリアは個人オーナーを意識したスポーティで先進的なイメージ
- 見分ける最も簡単なポイントはフロントグリルとエンブレムのデザイン
- セドリックは縦基調のグリルと王冠エンブレムが象徴
- グロリアは十字や横基調のグリルと鶴モチーフのエンブレムが象徴
- Y31型で走りを追求した「グランツーリスモ」が登場し人気が爆発
- グランツーリスモの成功がグロリアのスポーティイメージを決定づけた
- Y32/Y33グランツーリスモは精悍な丸目4灯デザインがアイコンとなる
- 中古車市場ではY31〜Y33のグランツーリスモ系が圧倒的な人気を誇る
- Y30ワゴンは長期間生産されカスタムベースとして独自の地位を築いた
- 2004年に両車の歴史に幕を下ろし後継車種のフーガへ統合された