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シビック EK9と環状族。その関係と歴史のズレを解説

夜の都市高速道路に停車している白いホンダ・シビックEK9。背景には光の軌跡と高層ビルが写っている。

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こんにちは。レトロモーターズプレミアム 運営者の「旧車ブロガーD」です。

「シビック EK9 環状族」というキーワードで検索されたあなたは、JDMカルチャーの中でも特に熱い、この二つの象徴的な存在の関係について知りたいと思っているのではないでしょうか。EK9といえばタイプRの初代であり、環状族といえば大阪の阪神高速を舞台にした伝説のストリートレーサーたちです。

しかし、よく調べてみると「環状族の全盛期はEK9が登場する前、EG6の時代だった」という話も出てきます。では、なぜシビックEK9が環状族のアイコンとして語られるのか、その理由や背景にある歴史、有名なチームや漫画ナニワトモアレの影響、さらにはB16Bエンジンの魅力、そして環状族の今(現在)やEK9の中古価格が高騰している事情まで、気になるところは多いですよね。ユーチューブなどの動画でその走りを見て、憧れを持った方もいるかもしれません。

この記事では、その「時間的なズレ」の謎を解き明かしながら、シビックEK9と環状族がどのようにして結びつき、現代の私たちが熱狂する「伝説」となったのかを、私なりに深掘りしていきたいと思います。

  • シビックEK9と環状族の全盛期にあった「時間的なズレ」の真相
  • なぜ環状族の主力マシンがシビック(特にEG6)だったのか
  • EK9が「環状族の象徴」として語られる文化的・技術的な理由
  • 環状族の有名なチームや、漫画、現在のJDMカルチャーへの影響

シビック EK9と環状族の歴史的関係

まず、この二つのキーワードを理解する上で欠かせないのが、「環状族」というカルチャーそのものの歴史と、EK9が登場する以前の状況です。一見、結びつきが強いように思える両者ですが、実はそこには明確な「時間差」が存在するんですよね。このセクションでは、EK9が登場する「前」の環状族カルチャーがどのようなものだったのかを詳しく見ていきます。

環状族とは?大阪阪神高速の伝説

夜の阪神高速環状線を走行する複数の改造されたホンダ・シビック。車内には日本人男性ドライバーが運転している。

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「環状族」とは、その名の通り、大阪市内を走る阪神高速1号環状線を主な舞台として、夜間に違法な高速走行(ストリートレース)を行っていた集団のことです。

彼らの活動が最も活発だった「全盛期」は、一般的に1980年代末から1990年代初頭とされています。この時期、毎晩のように100台を超える改造車が環状線に集結し、チーム同士のプライドを賭けたバトルが繰り広げられていたと言います。

彼らが走った阪神高速1号環状線は、東京の首都高速環状線(C1)などとは異なる、非常に特異なレイアウトを持っています。最大4車線にもなる一方通行の「右回り」ルートでありながら、その中には複雑な分岐や合流が連続します。このレイアウトが、単なる最高速競争ではない、独特のライン取りやコーナリング技術を要求する舞台となりました。

また、彼らの活動は単なる違法走行という側面だけでなく、若者たちにとっての「祭り」や「パレード」といった社会的な側面も強く持っていました。特にクリスマスや年末には大規模な集会が開かれ、環状線が改造車で埋め尽くされることもあったそうです。このアンダーグラウンドな熱気と危険性が、環状族を「伝説」として語り継がせる大きな要因となったんですね。

【重要】ストリートレースは違法行為です

本記事で紹介する環状族の活動は、当時の自動車文化や歴史的背景を解説するためのものです。これらはすべて重大な違法行為であり、公道での暴走行為やレース行為は、自身だけでなく他者の生命や財産を脅かす極めて危険な犯罪です。当サイトは、いかなる違法走行も推奨・美化する意図は一切ありません。絶対に真似をしないでください。

なぜシビックが環状の主力だったか

夜の大阪の高速道路を走る複数のホンダ・シビックEG6。車内には日本人男性ドライバーが運転している。

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その環状という特殊なステージで、「最強の兵器」として選ばれたのが、何を隠そうホンダ・シビックでした。

全盛期当時、スポーツカーといえば日産のスカイラインGT-R(R32)やシルビア(S13)、トヨタのAE86(ハチロク)といったFR(後輪駆動)車が人気でしたが、環状のタイトなコーナーが連続するレイアウトでは、シビックの持つ特性が圧倒的に有利に働いたと言われています。

その理由は、大きく分けて3つあります。

1. VTECエンジンの圧倒的パワー

最大の理由は、1989年に登場したグランドシビック(EF9)から搭載が始まったVTEC(B16A型)エンジンの存在です。高回転域(カムが切り替わった後)で爆発的なパワーを生み出すVTECの特性は、コーナーを抜けた後の短い直線での再加速や、他車を追い抜く(当時の言葉で「カモる」)ために不可欠な性能でした。

2. 軽量・FFのコーナリング性能

シビックは元々が大衆車であり、車体が非常に軽量でした。この「軽さ」と、FF(前輪駆動)ならではの高い接地感(グリップ)が、環状線のタイトなコーナーを驚くほど速いスピードで駆け抜けることを可能にしました。パワーで勝るFR車がコーナーで苦戦する中、シビックはそのコーナリングスピードで他を圧倒していったのです。

3. 入手しやすさとカスタムの幅

大衆車であるシビックは、中古車市場での価格が安価で、若者でも比較的手に入れやすい存在でした。また、圧倒的な販売台数のおかげでアフターパーツも豊富。これにより、多くの若者が環状族カルチャーに参加する裾野を広げる役割も果たしました。

環状を駆け抜けたシビックたち

EK9が登場する前、環状族の歴史はまさにシビックの進化と共にありました。ここで、彼らが愛した歴代の「環状シビック」を時系列で振り返ってみましょう。

通称 (型式) 世代 主な販売時期 主力エンジン 環状族における特徴
ワンダーシビック (AT/AH) 3代目 1983-1987年 ZC (DOHC) 環状族カルチャーの初期を支えた立役者。軽量ボディとZCエンジンの組み合わせで「打倒GT-R」の礎を築きました。
グランドシビック (EF) 4代目 1987-1991年 B16A (DOHC VTEC) 全盛期の主役機。初めてVTECを搭載した「SiR」(EF9)の登場が環状の勢力図を決定づけました。VTEC神話の始まりです。
スポーツシビック (EG) 5代目 1991-1995年 B16A (DOHC VTEC) 全盛期後期〜中期の主役機。「EG6」の愛称で知られ、流麗なフォルムと熟成されたVTECで最強マシンとして君臨。漫画『ナニワトモアレ』の象徴でもあります。

全盛期(EG6)との時間的なズレ

ここで、本記事の最も重要なポイントに戻ります。上の表を見ても分かる通り、環状族の全盛期(80年代末〜90年代初頭)を支え、その象徴となったのは、間違いなくグランドシビック(EF9)スポーツシビック(EG6)でした。

一方で、この記事のメインキーワードである「シビック EK9」こと、初代シビックタイプRが市場に登場したのはいつだったか。

そう、1997年8月です。

つまり、環状族の最も熱く、最も大規模だった時代が過ぎ、警察の取り締まり(オービスの設置やNシステムの普及)が格段に厳しくなってその勢いが衰え始めた「後」に、EK9は登場したことになります。

これが、「シビック EK9 環状族」というキーワードを調べたときに誰もがぶつかる「時間的なズレ」の正体なんですね。

では、なぜ全盛期をリアルタイムで走っていないはずのEK9が、現代においてこれほどまでに環状族と強く結びつけて語られるのでしょうか? その答えは、EK9が登場した「後」のカルチャーの変遷に隠されています。

環状族の有名なチームとNo Good Racing

夜の大阪高速道路上で、数台のホンダ・シビックEF/EGと、地図を囲んで戦略を練る日本人男性たち。

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EK9が環状族の「象徴」となるプロセスを理解する前に、当時のカルチャーについてもう少し深く触れておく必要があります。

環状族は個人ではなく「チーム」で活動するのが基本でした。最盛期には100を超えるチームが存在したとも言われています。その中でも、国内外で圧倒的な知名度を誇るのが「No Good Racing(ノーグッドレーシング)」でしょう。

彼らは速さだけでなく、その独特のスタイル(例えば、フロントガラスに貼られた大きなチームステッカー、警察の目を欺くためにわざとボロボロに見せる外装、バンパーレスなど)でも注目を集めました。このスタイルは後に「大阪JDM」というカスタムジャンルとして確立され、海外のJDMファンからも熱烈なリスペクトの対象となっています。

他にも「LATERISER(レイトライザー)」や「TOPGUN(トップガン)」など、多くの伝説的なチームが存在しました。彼らの存在とスタイルが、環状族というカルチャーを単なる走り屋の集団から、一種の「ブランド」へと昇華させたのは間違いないと思います。

環状族を描いた漫画ナニワトモアレ

夜の大阪の高速道路で、緑色のホンダ・シビックEG6がパトカーに追われている様子。

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そして、このローカルなアンダーグラウンド・カルチャーを全国区、いや世界的な「神話」にした最大の功労者と言えるのが、漫画『ナニワトモアレ』(および続編の『なにわ友あれ』)です。

文化的聖典『ナニワトモアレ』

この漫画は、作者である南勝久先生(現在は『ザ・ファブル』で大ヒット中ですね)の実体験に基づいているとされ、EG6シビック(作中では主人公が所属するチーム「スパーキー」と敵対する「トリーズン」のグッさんが乗る最強マシン)を中心とした環状族の青春が、とにかくリアルに描かれています。

単なるレースの速さだけでなく、チーム間の抗争、裏切り、友情、そして当時の大阪の「人情味」や「空気感」までが詰まっています。この作品を通じて環状族のロマンに触れ、シビックという車に特別な感情を抱いた人は、私を含め非常に多いはずです。

この漫画が描いた「環状族=シビック(EG6)最強」という強烈なイメージが、JDMカルチャーにおいて決定的なものとなったのは間違いないかなと思います。EK9は、この「神話化された環状族」の物語における、いわば「最強の聖剣」として、後から位置づけられることになるのです。

シビック EK9は環状族の象徴か?

さて、ここからが本題です。EG6が全盛期の主役であり、漫画でも象徴的に描かれた。では、その後に登場したEK9は、環状族にとって、そして現代の私たちにとって、どのような存在なのでしょうか。

EK9はメーカーが出した「答え」

夜の大阪高速道路のジャンクションに停車している、白いホンダ・シビックタイプR EK9。カーボンボンネットと白いホイールが特徴的。

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私の解釈ですが、EK9は「環状族がストリートで作り上げた歴史」に対する、「ホンダというメーカー自身が出した公式の答え」だったのではないかと思っています。

考えてみてください。環状族たちは、市販の大衆車であるシビック(EFやEG)を買い、自らの手で内装を剥がして軽量化し、エンジンに手を加え、足回りを固めて、あの環状線という公道で「最速」を証明し続けました。

その数年後、ホンダは「タイプR」という特別なブランドを冠して、まさに彼らが血眼になってやっていたチューニングのノウハウを、「メーカー純正」で再構築し、世に送り出したわけです。

EK9(タイプR)が純正で行った「環状チューン」

  • 徹底した軽量化: 遮音材の削減や装備の簡素化(エアコンレスが標準!)。
  • エンジン強化: 職人が手作業でポート研磨を行ったB16Bエンジン。
  • ボディ補強: 各部の補強による剛性の大幅アップ。
  • 専用足回り: 専用セッティングのサスペンションとヘリカルLSD。

EK9は、まさに「メーカーが本気で作った環状仕様(ストリート仕様)」とも言えるマシンでした。全盛期は過ぎていたとはいえ、90年代後半から2000年代初頭にかけて活動を続けていた「第二世代」または「後期」の環状族メンバーや、そのカルチャーに憧れる若者たちにとって、EK9は「究極のシビック」であり、最強の最終兵器として映ったのは当然のことだったと思います。

B16Bエンジンの技術的な優位性

EK9を「究極」たらしめた最大の要因は、間違いなくその心臓部、「B16B」型エンジンでしょう。

このエンジンは、EG6などに搭載されたB16A型をベースにしながら、排気量は1.6リッター(1,595cc)のまま、最高出力は185馬力(PS)/ 8,200rpmというとんでもないスペックを叩き出しました。(出典:Honda | シビックに「タイプR」を設定し発売 1997年8月21日

この数値は、リッターあたり約116馬力という、当時の市販NA(自然吸気)エンジンとしてはまさに世界最高峰の数値です。市販車でありながら、レーシングエンジンのように高回転まで(レッドゾーンは8,400rpmから!)回るよう設計されていました。

奇跡のエンジン「B16B」

B16Bは、ピストンスピードこそ抑えられていましたが、その中身は専用ピストン、専用カムシャフト、手作業によるポート研磨など、ほとんどレーシングエンジンと言っていい内容でした。高回転まで回した時の、あの「カァーン!」というVTECサウンドと、背中を蹴飛ばされるような爆発的な加速感は、他の何物にも代えがたい魅力がありますね。

このB16Bという奇跡的なエンジンがあったからこそ、EK9は単なる「速いシビック」ではなく、ホンダの、そしてJDMの歴史における「特別な一台」として、今もなお多くのファンを魅了し続けているのだと思います。

環状族は今(現在)もいるのか?

「じゃあ、環状族は今(現在)もいるの?」という疑問も当然ありますよね。

結論から言うと、漫画『ナニワトモアレ』にあったような、何百台ものマシンが集結し、警察と公然とイタチごっこを繰り広げるような全盛期の大規模な活動は、現在は事実上消滅しています。

その理由は、主に以下のような点が挙げられます。

  • 警察による取り締まりの強化(Nシステムや移動式オービスの高性能化)
  • 法規制の厳格化(騒音や排出ガス規制)
  • 道路環境の変化(環状線の改修など)
  • 若者の車離れと価値観の変化

しかし、その「文化」や「スタイル」が完全に消えたわけではありません。環状族のスタイルを受け継いだ「大阪JDM」というカスタムジャンルは今も健在ですし、サーキットなどでそのスピリットを受け継ぐ人たちもいます。また、小規模ながら活動を続ける人や、その文化に憧れてシビック(EGやEK)を大切に維持し、愛する人たちは国内外に多く存在します。

EK9の中古価格が高騰する理由

そうした文化的背景もあって、EK9の中古車価格は今、私たちの想像を絶するレベルで高騰しています。一昔前は100万円台でも探せた個体が、現在では状態が良ければ400万、500万円を超えるプライスがつくことも珍しくありません。

この異常とも言える高騰の理由は、複合的なものです。

EK9価格高騰の主な要因

  1. 文化的価値(ストーリー性)
    本記事で解説してきた「環状族の伝説」や「初代シビックタイプR」という唯一無二のストーリー性。
  2. 世界的JDMブーム(25年ルール)
    特にアメリカでは「製造から25年経過した右ハンドル車」の輸入が解禁される「25年ルール」があります。EK9(1997年〜)がこの対象となったことで、海外バイヤーによる需要が爆発的に増加しました。これはFC3S RX-7やシルビアなど、他のJDMスポーツカーにも共通する現象ですね。
  3. 技術的希少性(遺産)
    B16Bのような高回転型NAエンジンは、現代の厳しい環境規制や燃費志向の中では、メーカーが採算度外視で開発することは二度とないであろう「技術的遺産」です。
  4. 良好な個体数の激減
    発売から25年以上が経過し、事故や廃車、過酷な走行による消耗で、良好なコンディションを維持した個体が市場から激減していること。

これらの要因が複雑に絡み合い、EK9はもはや「大衆車ベースのスポーツカー」ではなく、「歴史的価値を持つコレクターズアイテム」へとその姿を変えつつあるのが現状ですね。

中古車購入時の注意点(再掲)

EK9のような古いスポーツカーは、その性質上、過去にサーキット走行やレース行為など、過酷な使われ方をしてきた個体も少なくありません。現在の高騰した中古価格はあくまで相場であり、購入を検討する際は、修復歴の有無やエンジン・ミッションの状態などを信頼できる専門家や販売店と共によく確認することを強くお勧めします。最終的な判断はご自身の責任において慎重に行ってください。

ユーチューブで見るJDM文化

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私たちが今、リアルタイムで体験していないはずのEK9や環状族の文化に、これだけ熱狂できるのはなぜでしょうか。その背景には、YouTube(ユーチューブ)をはじめとする動画プラットフォームや、SNS、ゲームなどのメディアの影響も非常に大きいと感じます。

海外のJDMファンが撮影・編集した、まるで映画のように美しいEK9の走行動画や、当時の環状族をオマージュした映像。さらには『グランツーリスモ』シリーズや、最近話題の『JDM: Japanese Drift Master』といったシミュレーションゲームでも、このカルチャーは最大限のリスペクトを持って取り上げられています。

リアルタイムを知らない若い世代や、国境を越えた海外のファンたちが、こうした現代のメディアを通じて「シビック EK9 環状族」という神話に触れ、新たなファンを生み出し、その伝説をさらに強固なものにし続けているんですね。

まとめ:シビック EK9と環状族の神話

最後に、シビック EK9と環状族という、一見すると「時間的なズレ」を持つ二つのキーワードについて、私なりの結論をまとめてみます。

確かに、EK9が環状族の「全盛期」をリアルタイムで支えたマシンではありません。その栄光は、間違いなくEG6やEF9が担ったものでした。

しかしEK9は、環状族がシビックというプラットフォームを信じ、ストリートで10年以上かけて証明してきた「FFシビック=最速」という「ストリートの理論」を、ホンダ自身が「Type R」という究極の形で具現化し、公式に追認した、歴史的な集大成です。

EG6が「ストリートが作った歴史」そのものだとするならば、EK9は「その歴史の頂点に立つ、メーカーが作った象徴(アイコン)」と言えるかもしれません。

だからこそ、この二つのキーワードは「時間のズレ」という事実を超えて、文化的・技術的な補完関係として強く結びつき、私たちJDMファンにとって、いつまでも色褪せない、最も熱い「伝説」であり続けているのだと、私は思います。

 

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  • この記事を書いた人

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はじめまして! 80~90年代の名車たちへの「憧れ」と、愛車のメンテナンスで得た「機械への敬意」を胸に、誠実な情報をお届けします。

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